亜沙美の挑発メールから、私が有坂さんを好きだと確信しているのがわかった。きっと彼女は、本気で彼を狙ってくるに違いない。いつもどこか私を見下していて、私より何歩も先を行きたがる人だから。
「どうかした、向井さん?ため息が深いわよ?」
昼休憩で、今日は亜沙美と顔を合わせたくなくて、会社の近くにある公園でひとりお弁当を広げていた。すると、コンビニの袋を持った片瀬さんに声をかけられた。
サンドイッチとコーヒーを買った片瀬さんは、私と同じように外で昼食を取ろうと思ったらしい。すると私を見つけて、声をかけたということだった。
「あ、片瀬さん。実は……」
恋愛のことは、信頼する片瀬さんにもなかなか言い出せないでいたけど、やっぱり話そう。仕事以外のことで、悩んでいるのを軽蔑されたくなかったからだけど、モヤモヤして苦しい今の気持ちから解放されたかった。
「なるほどね。向井さんが有坂くんを好きなのは気づいてたけど、心配は無用じゃない?」
片瀬さんは私の話を聞いたあと、ニコリと笑って言った。
「気づいてたんですか……?さすが片瀬さんです。でも、なんで心配ないと?」
驚きつつ、彼女の言葉を疑問に思った私は、それを尋ねていた。
「有坂くんも、きっと向井さんを好きだから。ただ、ライバルが多いわね。思い切って、自分の気持ちを表に出した方がいいかもしれない」
「え?でも、うちは社内恋愛に否定的です。有坂さんに迷惑がかかりませんか?」
だいたい、有坂さんが私を好きとは信じられない。
「そんなことはないわよ。それに有坂くん、次の人事で異動になるかもしれないし」
そうか、異動があるかもしれないんだ。
片瀬さんの言葉を聞いて、不安が広がっていく。そう考えたら、彼女の言うことも一理ある。
そんな思いを巡らせながらなんの進展もなく数日過ぎた頃、先日訪問した安田さんから注文キャンセルの連絡がきて、有坂さんの怒号が響いた。
いつもは温厚な有坂さんの怒った様子に、さすがの亜沙美たちも黙って見ている。
電話を切ったところを見計らって、私は有坂さんに急いで駆け寄った。
「安田さん、どうしてキャンセルなんて……」
青ざめる私とは違って、有坂さんは顔を赤くしている。かなり興奮した様子で、私をチラッと見た。
「わからない。あんなに向井の商談を褒めてくれていたのに、突然、オレたちからの購入は見合わせたいって……」
「オレたちって、原因は私たちなんですか?」
どうしてなの?商品が気に入らないならまだしも、”私たちだから”イヤ?
まるで納得できない私は、しばらく絶句していた。
すると、ちょうど外回りから戻ってきた部長が、鬼の形相で私たちの側へやってきたのだった。
「有坂に向井、これはどういうことだ?」
部長が突き付けたA4サイズの紙には、パソコンの文字で
<商品企画課の有坂と向井は、終業後の社内で情事にふけっている>
と書かれていた。
文:花音莉亜


花音莉亜
ライター