「女たちの戦場」第五話:接近
Love 2017.03.15 UPDATE

「女たちの戦場」第五話:接近

午後からの顧客訪問には、事前に作成した資料を持参する。

すでに有坂さんと打ち合わせはしていたけれど、もう一度確認する意味で、彼は社用車に乗り込むとすぐに、私に資料を見せるよう依頼した。

運転席の有坂さんはひととおり目を通すと、資料のファイルをパタンと閉じた。

「よし、これなら絶対に大丈夫だ。向井の新商品は、きっと先方に受け入れてもらえるよ」

「はい!」

有坂さんがそう言うと、不思議と大丈夫な気がしてくる。有坂さんは私に笑みを向けると、車を走らせた。

Road Trip

オフィス街を通り抜け、ビルもまばらになった場所に、得意先であるカフェがある。オープンして三年になるその店は南フランス風の造りで、私たちのメーカーのインテリアをずっと使ってくれていた。

「有坂さん、向井さんこんにちは」

お店が定休日の今日は、オーナーである安田さんは、いつものシェフ姿ではなく、カジュアルなシャツとジーンズ姿だ。三十代半ばの男性で、とても優しそうな顔をしている。

「いやぁ、向井さんのセレクトなんでしょ?いい商品を選んでくれてるなぁ」

と、商品一覧の資料を眺めながら、満足そうに頷いてくれた。

「そうなんですよ。向井のセンスはなかなかでしょう」

有坂さんはフォローを入れてくれ、それが私にはうれしかった。

「じゃあ、今回はこれと、これをお願いしようかな」

安田さんは新商品をいくつか注文してくれた。会社にいい報告ができそうだ。帰り際に、安田さんから「有坂さんは、優秀な後輩が側にいますね」と言われて、気恥ずかしさでいっぱいになった。

「有坂さん、ありがとうございました。いろいろフォローしていただいたお陰で、今回の受注に繋がったのだと思います」

車に乗りお礼を言うと、有坂さんはゆっくり首を横に振った。

「それは違う。向井がきちんと商品の特性を把握してたからだ」

「有坂さん……」

認めてもらえることで、心が満たされる。亜沙美たちのことが、どうでもいいと思えるくらいに。

「なあ、向井。今夜は予定ある?」

「いえ、ありませんけど……」

「じゃあ、ふたりで飲みに行かないか?」

有坂さんからの突然の誘いに、驚きつつも「はい」と返事をしていた。

Applying lip liner

一度会社に戻り、帰り支度を済ませると、人目をはばかるように彼と待ち合わせをする。

私たちの会社は社内恋愛にあまりいいイメージを持たないから、たとえ付き合っているわけでなくとも、こうやって男女ふたりでプライベートを過ごすことには神経質になる。

有坂さんは、きっと今日のねぎらいの意味で誘ってくれたのだろうし、私と一緒にいるところを見られて、誤解をされてはいけない。

オフィス街を抜け、駅前通りの路地を入った小さなフレンチレストランの前で、有坂さんと待ち合わせをしている。

ドキドキする気持ちを抑えながら、でも足早に店へ向かうと、すでに有坂さんは来ていて、私を見つけると小さく手を振ってくれた。

文:花音莉亜