「女たちの戦場」第三話:アピールが大事?
Love 2017.03.15 UPDATE

「女たちの戦場」第三話:アピールが大事?

「有坂さん、食べてください」

語尾にハートマークがついていそうな猫撫で声で、由依はお弁当を差し出した。

「ありがたいけど、今日は持ってきてるし。それに、人からもらうのは苦手だから……」

有坂さんは困った顔で、休憩室の入口で立ち止まっている。昼休憩になり、由依はお決まりの行動をとっていた。彼女は狙った男性に、まず家庭的なアピールをするからだ。

私からしてみれば、ベタなやり方だとは思うけど、「お弁当を差し出す」という行為は、意外と男性の心を掴むんだと、ここ数ヶ月で思い知らされている。

でも、有坂さんの拒絶は予想外だったのか、由依はア然としていてお弁当を差し出した手をなかなか引っ込められないでいた。私は、直属の上司である片瀬課長代理とお弁当を広げながら、その様子を呆れた風に見ている。

片瀬さんは四十歳のキレイな女性で、仕事ができて優しい人。仕事のグチを聞いてもらったり、気さくに接することができる貴重な上司だ。プライベートでは独身で、仕事一筋の人。彼女を見ていると、自分も頑張らないといけないと思わせられる。


「有坂さん、困ってましたね」

ボソッと呟くと、片瀬さんがクスッと笑った。

「そうね。坂下さんは、次は有坂くんを狙ってるのかな?」

さすが片瀬さんにもわかるらしく、先日のランチで亜沙美に刺激を受けたのか、由依までも有坂さんへアプローチを始めた。それに戸惑う私だけど、唯一の救いは、有坂さんが由依のお弁当を拒否していることだ。

「かもしれないです。最近、有坂さんはヒット商品を作って目立っていますし、急に女子社員の注目を浴びましたよね?」

半分嫌みをこめると、片瀬さんはうんうんと頷いている。

「それに私、由依が家では自炊すらしないの知ってます。それなのに、手作り弁当でアピールって……」

それに騙される男性も男性だけど……と思いつつ、片瀬さんにグチると、彼女は優しい笑顔で諭すように言った。

「でもね、アピールって大事よ。でなければ、相手に気持ちが伝わらない。まあ、あまりこれ見よがしはどうかと思うけど」

「アピール……ですか」

たしかに、私なんて由依たちのあからさまな態度を批判しながらも、自分ではなにも行動を起こしていない。紗羅に言われた「恋する乙女タイプ」という言葉が、今身にしみてわかった。

有坂さんも、由依たちのような自分にアピールしてくる人たちに、心を動かされるのかな……。

少し凹み気味でお弁当を開けたときだった。

「お、向井の弁当っておいしそうじゃん。片瀬さん、ここいいですか?」

と声をかけてきたのは、有坂さんでドキッとする。

「もちろん、いいわよ。どうぞどうぞ」

と、片瀬さんは私の正面に有坂さんを促した。

「さっき、坂下さんからアプローチされてたわね?」

片瀬さんは面白そうにクスクス笑いながら、彼に突っ込んでいる。すると、有坂さんは困ったような笑顔を浮かべた。

「気持ちは嬉しいんですけど、ああいうあからさまな態度は苦手なんです」