私、向井奈々子。二十五歳。大手インテリアメーカーに勤務している。所属は商品企画課で、文字どおり新商品を企画していくところ。部署全体は二十人ちょっとで、そこから数人でチームを作り、業務を進める。
そのチームメートでもあり同期の望月紗羅が、ランチで訪れているパスタの店で、深いため息をついた。
「はぁ~。営業の高原くん、カッコイイのにエッチが下手なのよね」
しょうゆパスタをフォークにくるくる巻きながら、不満顔で口に入れた。
「ちょっと紗羅ってば、また……?」
昼時に下ネタか、と内心ウンザリしながら、紗羅に呆れた顔を向ける。だけど、正面に座っている同じく同期の坂下由依と後輩の迫田亜沙美は、興味津々に目を輝かせていた。
「うそ、それってドン引き。見た目には騙されるなって感じね」
由依は、週一で変えてくるネイルアートが施された爪を見ながら言った。人一倍、オシャレや流行ものには敏感で、自分磨きに余念がない。普段は、オーガニック素材を使ったお弁当を持ってきては、男性社員に家庭的な部分をアピールしている。でも、実際には家事全般が大嫌いで、彼女の一人暮らしをしている部屋には、カップ麺が大量にストックされているのを知っていた。
「でしょ? ったく、次は誰を狙おうかなぁ」
紗羅は目鼻立ちのハッキリした美人で、Eカップのグラマーな体型。それでいて男性には愛想が良く、紗羅に彼氏やセフレが途切れた話を聞いたことがない。
「ちょっと、向井先輩ってば、これくらいの話で、拒絶反応起こさないでくれます?」
亜沙美は、嫌みっぽい口調で私に言った。
「これくらいのことって……。だいたい、まだ昼間でしょ?」
店で話すような内容でもないと思うのに。こういう下世話な会話はしょっちゅうで、そのたびに憂鬱になっていた。
「え~? まさか、先輩。本気で言ってます? じゃあ、聞きますけど、夜なら会話に入ってくれるんですか?」
「そ、それは」
と口をつむぐと、亜沙美はフンと鼻で笑った。
「向井先輩は、ちょっと堅いんですよ。だから、まともに男友達すらできないんです」
「そうそう、服装もメイクもヘアスタイルも地味。それじゃ色気ゼロよ?」
と、由依まで乗ってくる。まったく、またそれ?三人の話題に乗れないと、最後はきまってダメ出し。言い返す気力も勇気もない私は、黙って残りのパスタを口にした。
すると、それまで仏頂面で私を見ていた亜沙美の顔が、パッと輝いた。
「有坂さ~ん」
亜沙美お得意の猫なで声で呼んだ名前は、同じ部署の先輩、有坂航一さんだった。思わず振り向くと、部長と一緒に入ってくる姿が見える。部署ナンバーワンのイケメンで、爽やかな優しい人。私たちに気づいた有坂さんが、穏やかに微笑んだ。
「奈々子先輩、私、有坂さんを狙ってるんです」
亜沙美は私に耳打ちをすると、有坂さんの元へ駆けていった。「えっ?」亜沙美が有坂さんを狙ってる?聞き捨てならないセリフに、心は動揺していた。


花音莉亜
ライター